暮しの手錠

板垣も自由も死んだ

エトン。

降り頻る雨の中、僕はライトバンのギアをニュートラルにして車を停めた。
毎朝缶コーヒーを飲まなくては生きていけない身体になって13年。
僕はダイドー自動販売機が好きだ。不味いから好きだ。そもそも缶コーヒーに美味しさを求めることが間違いなのである。そんな奴は毎朝ウォーキングの帰りにアラビカコーヒーにでも行けばいい。僕はマクドのマインドでマクロビもビーガンもぶっ飛ばす。

車のダッシュボードの裏に挟んだ小銭入れを抜き取り、僕はいつもの缶コーヒーを買うために100円玉を入れ、デミタスと書かれた紫色の缶の下についたボタンを押した。
 エトン。
 デミタスを取り出そうと下を覗くと、そこにデミタスの姿はなかった。しかし今、確かにエトンと音がした。おそらくは取り出し口のやや奥に引っ掛かり出てこれなくなっている。通常ならゴトンと音がして出てくるが、なんつーかこう、少し奥の方でエトンと音がした。この場合自動販売機をガタガタ揺することで、デミタスが現れる可能性が高いが、三十路を過ぎた作業着の男が公衆の面前で自動販売機を揺するのはどうもアレだし、更には二児の父でもある、ここはひとつ大人な対応をしたほうがいい。つまり、デミタスをもう1本買い、2本目の衝撃によって1本目を手前に導く。これしかない。
僕はもう100円を入れ、少し強めにデミタスと書かれた紫色の缶の下についたボタンを押した。
 エトン。
 2本のデミタスを取り出そうと下を覗くと、そこにデミタスの姿はなかった。しかし今、確かにエトンと音がした。おそらくは取り出し口のやや奥に引っ掛かり出てこれなくなっている。通常ならゴトンと音がして出てくるが、なんつーかこう、少し奥の方でエトンと音がした。この場合自動販売機をガタガタ揺することで、デミタスが現れる可能性が高いが、三十路を過ぎた作業着の男が公衆の面前で自動販売機を揺するのはどうもアレだし、更には二児の父でもある、ここはひとつ大人な対応をしたほうがいい。つまり、デミタスをもう1本買い、3本目の衝撃によって1本目と2本目を手前に導く。これしかない。
僕はもう100円を入れ、少し強めにデミタスと書かれた紫色の缶の下についたボタンを押した。
 エトン。
 3本のデミタスを取り出そうと下を覗くと、そこにデミタスの姿はなかった。しかし今、確かにエトンと音がした。おそらくは取り出し口のやや奥に引っ掛かり出てこれなくなっている。通常ならゴトンと音がして出てくるが、なんつーかこう、少し奥の方でエトンと音がした。この場合自動販売機をガタガタ揺することで、デミタスが現れる可能性が高いが、三十路を過ぎた作業着の男が公衆の面前で自動販売機を揺するのはどうもアレだし、更には二児の父でもある、ここはひとつ大人な対応をしたほうがいい。つまり、デミタスをもう1本買い、4本目の衝撃によって1本目と2本目と3本目を手前に導く。これしかない。
僕はもう100円を入れ、少し強めにデミタスと書かれた紫色の缶の下についたボタンを押した。
 エトン。
 4本のデミタスを取り出そうと下を覗くと、そこにデミタスの姿はなかった。しかし今、確かにエトンと音がした。おそらくは取り出し口のやや奥に引っ掛かり出てこれなくなっている。通常ならゴトンと音がして出てくるが、なんつーかこう、少し奥の方でエトンと音がした。この場合自動販売機をガタガタ揺することで、デミタスが現れる可能性が高いが、三十路を過ぎた作業着の男が公衆の面前で自動販売機を揺するのはどうもアレだし、更には二児の父でもある、ここはひとつ大人な対応をしたほうがいい。つまり、デミタスをもう1本買い、5本目の衝撃によって1本目と2本目と3本目と4本目を手前に導く。これしかない。
僕はもう100円を入れ、少し強めにデミタスと書かれた紫色の缶の下についたボタンを押した。 
エトン。
 5本のデミタスを取り出そうと下を覗くと、そこにデミタスの姿はなかった。
 こうして僕は朝から500円を失った。
アラビカコーヒーが飲みたかった。

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